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社会保険労務士・行政書士 今井まさみ事務所

労務・社会保険Q&AReference

第14次労働災害防止計画について

今年度改定された国の第14次労働災害防止計画のポイントを教えて下さい。

1 国の労働災害防止計画とは

労働安全衛生法(第6条)に基づき、労働災害の防止に関し基本となる目標、重点課題等を厚生労働大臣が定める5か年計画。戦後の高度成長期における産業災害や職業性疾病の急増を踏まえ、1958年に第1次の計画が策定されて以降、社会経済の情勢や技術革新、働き方の変化等に対応しながら、これまで13次にわたり策定されてきました。今回の計画は令和5年(2023年)4月1日から令和10年(2028年)3月31日までの第14次の労働災害防止計画になります。

2 第14次労働災害防止計画の概要

(1)計画の方向性

①事業者の安全衛生対策の促進と社会的に評価される環境の整備を図っていく。そのために、厳しい経営環境等さまざまな事情があったとしても、安全衛生対策に取り組むこと

事業者の経営や人材確保・育成の観点からもプラスであることを周知する。

②転倒等の個別の安全衛生の課題に取り組んでいく。

③誠実に安全衛生に取り組まず、労働災害の発生を繰り返す事業者に対しては、厳正に対処する。

(2)重点対策

①自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発(社会的に評価される環境整備ほか)

②労働者(中高年齢の女性を中心)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進

③高年齢労働者の労働災害防止対策の推進

④多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進

⑤個人事業主等に対する安全衛生対策の推進

⑥陸上貨物運送業、建設業、製造業等業種別の労働災害防止対策の推進

⑦労働者の健康確保対策の推進(メンタルヘルス、過重労働、産業保健活動)

⑧化学物質等による健康障害防止対策の推進

(3)死亡災害・死傷災害の指標

①死亡災害については、2022年度と比較して、2027年度までに5%以上減少する。

②死傷災害については、2021年度までの増加傾向に歯止めをかけ、死傷者数については、2022年度と比較して2027年度までに減少に転ずる。

(4)主な具体的取組例

①自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発

  健康経営の実施⇒健康経営とは、従業員の健康増進を重視し、健康管理を経営課題として捉え、その実践を図ることで従業員の健康の維持・増進と会社の生産性向上を目指す経営手  法のこと。安全かつ安心して働くことができる職場づくりは、「コスト」ではなく「人的投資」という考え方

・労働者の安全と健康を守る。

・労働災害に伴う生産設備の停止や各種費用による経済的損失を回避(軽減)

・人材の確保・育成を始めとする組織の活性化、業績向上、(社会的)価値の向上

② 作業行動に起因する労働災害防止対策

 ア 転倒災害防止対策

転倒災害は、加齢による骨密度の低下が顕著な中高年齢の女性をはじめとして極めて高い発生率となっており、対策を講ずべきリスクであることを認識し、その取組を進める。

・転倒しにくい環境づくり

ハード面⇒段差の解消・見える化、通路や作業場所の床の水等の拭き取り、整理整頓の徹底等

ソフト面⇒転倒リスクチェックの実施とその結果を踏まえた運動プログラムの導入、骨粗しょう症検診の受診勧奨等

イ 腰痛災害防止対策

ハード面⇒リフターや自動搬送装置、重量物注意の警告表示等

ソフト面⇒作業に見合った始業前の腰痛予防体操の実施、身体の負担軽減のための技術の習得等

③高年齢労働者の労働災害防止対策

「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)を踏まえた対策

エイジフレンドリーガイドラインとは、高齢者を現に使用している事業場やこれから使用する予定の事業場で、事業者と労働者に求められる取組を具体的に示したもの。

ア 経営トップ自ら安全衛生方針を表明し、担当組織・担当者を指定、リスクアセスメントの実施

イ 身体機能の低下を補う設備・装置の導入、高年齢労働者の特性を考慮した作業管理、勤務形態等の工夫

ウ 健康測定等により、事業者、高年齢労働者双方が健康や体力の状況を客観的に把握

エ 把握した状況に応じて適合する業務をマッチング、身体機能の維持向上への取組

オ 写真や映像等の情報を活用した安全衛生教育、経験のない業種や業務に従事する場合の丁寧な教育訓練

④ 労働者の健康確保対策

「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(令和4年3月改訂)等の周知啓発を強化

「過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置」(平成 18 年 3 月17 日付基発第 0317008 号)に基づき、以下の措置を行う。

・ 時間外・休日労働時間の削減、労働時間の状況の把握、健康確保措置等

・年次有給休暇の確実な取得の促進

・勤務間インターバル制度の導入  等

ウ 産業保健総合支援センター及び地域産業保健センターを通じた、小規模事業場におけるメンタルヘルス対策の支援

⑤ 化学物質等による健康障害防止対策

ア 従来の個別規制に加えて、国によるGHS分類で危険・有害性が確認されたすべての化学物質について、危険性・有害性の伝達(譲渡・提供時のラベル表示・SDS表示)

イ 保護具の適正な選択及び使用の徹底

割増賃金について

Q 2023年4月1日より、中小企業への法定時間外労働60時間超の割増率が50%以上に引き上げられました。改めて、割増賃金の割増率や計算方法、端数処理について教えて下さい。

A 使用者が労働基準法(以下「労基法」という。)第33条又は第36条第1項の規定により、労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が、1箇月について60時間を超えた場合においては、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。(労基法第37条)

1 時間外、休日及び深夜の割増賃金の割増率

(1)法定時間外労働……通常の賃金の25%以上(月の法定時間外労働が60時間を越えた場合、超えた時間以降50%以上)

(2)法定休日労働 ……通常の賃金の35%以上

(3)深夜労働(午後10時から翌日午前5時までの間の労働)……通常の賃金の25%以上(管理監督者も対象)

(4)法定時間外労働が深夜労働となった場合……通常の賃金の50%以上

(月の法定時間外労働が60時間を越えた場合の深夜労働は、超えた時間以降75%以上)

(5)法定休日労働が深夜労働となった場合……通常の賃金の60%以上

2 割増賃金の計算方法(労基法第37条、労基法施行規則第19条、20条、21条)

基準単価(1時間当たりの賃金額)×残業時間数×割増賃金率

基準単価とは、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額で、算定基礎は「基本給」+「各種手当」(通勤手当、家族手当、住宅手当など除外賃金あり)

(1)時給⇒当該金額

(2)日給⇒日給額÷1日の所定労働時間(異なる場合は1週間における1日の平均所定労働時間)

(3)月給⇒月給額÷月の所定労働時間(異なる場合は1年間における月平均所定労働時間)

月平均所定労働時間の求め方 ⇒ (365日―休日)×1日の所定労働時間

12月

3 残業時間と割増賃金の端数処理(昭和63年3月14日付通達)

労働時間の把握は分単位で行い、日ごとの端数処理はできない。ただし、以下の範囲であれば、賃金不払いの法違反として取り扱わないこととしている。(行政解釈)
(1)残業時間の端数処理

1か月における時間外労働、休日労働及び深夜労働の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数は切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。

(2)割増賃金の端数処理

1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げること。

(4)判例等における割増賃金の趣旨

残業をしたら割増賃金を払えばいい(支払い義務を果たせばいい)というのではなく、割増賃金は労働時間抑制のための制度で、割増率や罰則まで課して、労働時間の削減を

促す趣旨がある。

社会保険の適用拡大について

Q 社会保険の適用について、令和4年10月より短時間勤務労働者へ義務的適用が、事業所規模501人以上から101人以上に適用拡大されましたが、具体的な内容について教えて下さい。

A 社会保険の適用拡大について
1 社会保険への加入要件について
(1)加入が義務付けられている事業所(適用事業所)
① 法人の事業所(事業の種類を問わない)
② 常時5人以上の従業員を使用する一定の業種(飲食業・理容業・農林水産業など)を除く個人事業所
(2)対象労働者(被保険者)
① 適用事業所に常時使用される70歳未満の労働者
② 1週間の所定労働時間及び1ケ月の所定労働日数が、上記①の社員の4分の3以上であるパート・アルバイト等の短時間勤務の労働者

2 これまでの1(2)②以外の短時間勤務労働者への義務的適用
(1)従業員数501人以上の事業所で使用され、一定の条件を満たす人(2016年4月から)
(2)労使合意により、従業員数500人以下の事業所において、一定の条件を満たす人(2017年4月から)
3 年金制度改正法施行により、義務的適用となる短時間勤務労働者
(1)2022年10月からの適用拡大(①~⑤の要件を全て備える労働者)
① 従業員数101人~500人の事業所で使用されている人
・従業員数は社会保険の被保険者数
・直近12か月のうち6か月で100人を上回ったら適用対象
・法人は同一の法人番号を有する全事業所単位、個人事業主は個々の事業所単位
② 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満で働いている人
・契約上の所定労働時間であり、臨時に生じた残業時間は含みません。
ただし、実労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、なお引き続くと見
込まれる場合には、3ケ月目から社会保険への加入が必要となります。
③ 賃金月額が8.8万円以上で働く人
・月額賃金は基本給や諸手当を指します。(残業代・賞与・臨時的な賃金、通勤
手当・精皆勤手当等は含まれません。)
④ 2ケ月を超える雇用見込みがある人
・雇用期間が2か月以内であっても、雇用契約書等においてその契約が更新され
る場合がある旨の明示や、更新により2か月を超えて雇用された実績がある場
合を含みます。
⑤ 学生ではない
・夜間学生や休学中の学生は加入対象
(2)2024年10月からの適用拡大
従業員数51人~100人の事業所で、上記3(1)の②から⑤と同様の条件で使用されている人(従業員数については(1)①と同様の考え方で100人を50人に)

改正育児介護休業法について

Q 改正育児介護休業法の育児休業等に係わる制度の改正点について教えて下さい。

A 育児休業等に係わる制度の主な改正内容

1 令和4年4月1日施行内容

(1)個別の周知・意向確認の義務化

本人又は配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して、以下の周知・意向確認を個別に行わなければならない。

① 周知事項

ア育児休業、出生時育児休業(以降「産後パパ育休」という。)に関する制度

イ育児休業、産後パパ育休の申出先

ウ育児休業給付に関すること

エ労働者が、育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会保険料の取り扱い

② 個別周知・意向確認の方法(ウ、エは労働者が希望した場合のみ)

ア面談(オンライン面談可)、イ書面交付(郵送可)、ウFAX、エ電子メール

(2)育児休業を取得しやすい雇用環境整備の義務化

育児休業と産後パパ育休の申し出が円滑に行われるようにするため、事業主は全従業員に対して、以下のいずれかの措置を講じなければならない。

①育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施

②育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備等(相談窓口の設置)

③自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供

④自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知

(3)有期雇用労働者の育児休業取得要件の緩和(就業規則等の見直し)

有期雇用労働者の育児休業(介護休業も同様)取得要件について、①「同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること」、②「子が1歳6か月に達する日までに労働契約(更新される場合は更新後のもの)の期間が満了することが明らかなこと」のうち、①の要件を廃止。ただし、労使協定の締結により、①の要件を残すことは可能

(4)育児休業等を理由とする不利益取扱い禁止の追加(就業規則等の見直し)

妊娠・出産の申出をしたこと、産後パパ育休の申出・取得、産後パパ育休期間中の就業の申出・同意しなかったこと等を理由とする不利益な取扱いを禁止

 

2 令和4年10月1日施行内容

産後パパ育休と育児休業の概要(改正育児・介護休業法) 赤字は新設・改正部分)

  (1)産後パパ育休(新設) (2)育児休業
対象期間

取得可能日数

子の出生後8週間以内に、4週間(28日)まで取得可能 原則、子が1歳(最長2歳)まで
申出期限 原則、休業の2週間前までだが例外あり 原則、1か月前まで
分割取得 分割して2回取得可能(初めにまとめて申し出ることが必要) 分割して2回取得可能(取得の際に申出)
休業中の就業 労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能 原則、就業不可

 

1歳以降の延長   休業開始日の柔軟化
1歳以降の再取得   特別な事情がある場合に限り再取得可能

(1)産後パパ育休について(就業規則等の見直し)

①子の出生後8週以内の期間に、4週間(28日)まで2回分割して取得可能

②取得可能対象者

ア 育児のために休業することを希望する男性労働者(日雇労働者を除く)

有期雇用労働者は、出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日から6か月を経過する日までに、その労働契約が満了することが明らかでない者

イ 労使協定の締結により対象外にできる労働者(育児休業対象除外者と同様)

・雇用された期間が1年未満の者

・申出後8週間以内に雇用関係が終了する者

・週の所定労働日数が2日以下の者

③産後パパ育休申出期限の例外(労使協定の締結)

原則、休業の2週間前だが、労使協定を締結し、一定の措置(1(2)の措置や育休取得が円滑に行われるための業務配分や人員配置の措置を2つ以上、取得に関する定量的な目標設定など)を講じた場合は、1か月以内の期間を申出の期限と定めることが可能となる。

④ 産後パパ育休中に就業させることができる日数の範囲(労使協定の締結)

ア 育休期間の所定労働日数の2分の1以下(1日未満の端数は切り捨て)

イ 育休期間における所定労働時間の合計の2分の1以下

ウ 育休開始予定日または育休終了予定日を就業日とする場合は、当該日の所定労働時間数に満たないものであること。

(2)育児休業について(就業規則等の見直し)

①子が1歳に達するまでの育児休業の取得は理由を問わず1人につき2回まで分割取得可能

②1歳(1歳6か月)以降の育児休業開始日について、子が1歳に達する日の翌日(子が1

歳6か月に達する日の翌日)に限定されていたが、夫婦交代で育児休業を取得する場合、「その配偶者の育児休業の終了予定日の翌日以前の日」を育児休業開始予定日とできるようになる。

③1歳以降の育児休業(子が1歳から1歳6か月までの休業、1歳6か月から2歳までの休業)が、他の子についての産前・産後休業、産後パパ育休、介護休業又は新たな育児休業の開始により育児休業が終了した場合で、産休等の対象だった子等が死亡等したときは、再度育児休業を取得できる。

(3)雇用保険の育児休業給付金について(雇用保険法)

①育児休業給付金の被保険者期間の特例(令和3年9月1日施行済)

育児休業給付金の支給には、育児休業開始前2年間に12か月以上の雇用保険被保険者期間が必要だったが、出産日によってこの要件を満たさない場合でも、産前休業開始日等の前2年間に12か月以上の被保険者期間がある場合には、要件を満たすものとされた。

②産後パパ育休中に受給できる育児休業給付金の新設

ア 受給要件

・育休開始日前2年間に、賃金支払い基礎日数が11日以上ある。(ない場合は就業して いる時間数が80時間以上の完全月が12月以上ある。)

・育休期間中の就業日数が最大10日(10日を超える場合は就業している時間数が80時間)以下であること。

イ 支給額

・育休開始時賃金日額(原則、休業開始前6か月間の賃金を180で除した額)×支給日数×67%(育児休業給付支給率67%の上限日数である180日に通算)

ウ 申請期間

出生日の8週間後の翌日から起算して2か月後の月末まで(2回分割して取得した場合は、1回にまとめて申請)

(4)育児休業中の社会保険料の免除(健康保険法、厚生年金保険法、船員保険法)

①育児休業を開始した日の属する月からその休業が終了する月の前日までの月の保険料免除

②育児休業等を開始した日の属する月とその育児休業が終了する日の翌日が属する月が同一であり、かつ当該月における育児休業等の日数が14日以上である場合は、その月の保険

料を免除。なお、賞与の社会保険料は、1か月を超える場合に限り免除。(追加)

 

3 令和5年4月1日施行内容

(1)育児休業の取得状況の公表の義務付け

常時雇用する労働者の数が1,001人以上の事業主は、毎年少なくとも1回以上、育児休業の取得状況の公表をしなければならない。

パワーハラスメントの内容と会社のパワハラ防止に向けた取組みについて

パワーハラスメントの内容と会社のパワハラ防止に向けた取組みについて教えて下さい。

職場におけるパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)について

改正労働施策総合推進法(以下「パワハラ防止法」という)は、2020年6月に施行され、2022年4月1日からは中小企業においてもパワハラ防止対策が義務付けられており、ハラスメントのない職場環境の整備が求められます。

1 パワハラ対策の必要性

(1)社員への影響

①被害者が心身の健康を害し、休職、退職等に至る可能性
②職場環境が悪化する。

(2)会社への影響

①モラルの低下⇒生産性の低下⇒業績の悪化
②社員の定着率の低下⇒優秀な人材の流出
③会社イメージの悪化(企業名公表や報道・SNSによる拡散)⇒人材採用の困難化

(3)労災認定への影響

ハラスメントなどの心理的負荷による精神障害の労災認定については、「心理的負荷による精神障害の認定基準」(強・中・弱の三段階)に基づいて、発病した精神障害が業務上のものと認められるかの判断が行われており、その具体的出来事の中に「パワーハラスメント」も明示されている。

(4)行政監督や訴訟の対象となるリスク

①労働基準監督署による指導、勧告、企業名公表
②加害者の行為に対する使用者責任(代位責任)
③労働契約法などの配慮義務に基づく使用者責任

・労働者の生命、身体の安全を確保するよう配慮する安全配慮義務違反や働きやすい職場環境を整える職場環境配慮違反による損害賠償責任

2 パワハラとは(パワハラ指針より)

パワハラ防止法に基づき策定された「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(以下「パワハラ指針」という)では、パワハラを「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの」で、①から③までの要素を全て満たすものと定義しています。

(1)要件①「優越的な関係を背景とした言動」

行為を受ける者が行為者に対して、抵抗または拒絶できない蓋然性が高い関係に基づいて行われる言動

・基本は職務上の地位の違い(上司対部下)
・人間関係(先輩対後輩、集団対個人)や専門知識、経験から来る様々な優位性が含まれる

(2)要件②「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」

社会通念に照らし、当該行為が明らかに業務上の必要性がない、またはその態様が相当ではないものであること。

・業務上の必要性(行為者の主観的な判断ではない)
・社会通念上の相当性は、発言内容の悪質性(人格を傷つける、侮辱、威圧、過剰な要求)、

言動の回数・期間(繰り返し、長時間にわたる)、手段(暴行・接触、怒鳴る、必要以上の長時間、さらし者的、多人数、アウティング)、受けた・示唆された不利益の程度などの事情を考慮して、社会通念上許容される限度を超えているか否かで判断

(3)要件③「「就業環境が害される」

行為を受けた者が身体的もしくは精神的に圧力を加えられ負担と感じること、または行為を受けた者の職場環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること。(看過できない程度の支障は、一定の客観性があり、平均的な労働者の感じ方を基準として判断)

3 パワハラ行為について

(1)パワハラ6類型(「職場のパワーハラスメント対策に係る自主点検の解説」厚生労働省)

①類型1 身体的・物理的な攻撃 たたく、小突く、物を投げつける など
②類型2 精神的な攻撃 人格否定の言葉、長時間又は繰り返し、威圧的な叱責 など
③類型3 人間関係からの切り離し 無視、仲間外し、情報の遮断 など
④類型4 過大な要求 業務とは無関係な雑用や不要なこと・出来ないことの強制 など
⑤類型5 過少な要求 仕事を与えない、能力や経験とかけ離れた仕事をさせる など
⑥類型6 個の侵害 職場外の動向の監視、プライベートの報告 など

パワハラ防止に向けた会社の取組み

1 パワハラの内容とパワハラの禁止の周知・啓発 (パワハラ指針4(1)イ)

(1)職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を、管理監督者を含む労働者(パートタイム労働者、有期契約労働者、派遣労働者を含む)に周知・啓発すること。

(2)懲戒規定等の策定とその運用(パワハラ指針4(1)ロ)

就業規則など服務規律を定めた文書で、パワーハラスメント行為を行った者について、懲戒規定等に基づき厳正に対処する旨を定め、事務所内への掲示やイントラネット等により管理監督者を含む労働者に周知・啓発する。

2 相談・苦情の応じ、適切の対応するために必要な体制の整備

(1)相談窓口の設置と周知(パワハラ指針4(2)イ)

組織の規模や形態などを考慮し、労働者が相談しやすい相談窓口(内部・外部)を設置・周知することにより、電話、メール、面談等の相談方法により初期段階で対応できるようにする。

(2)適切な相談対応(パワハラ指針4(2)ロ)

相談窓口担当者には、十分な対応スキルを持てるよう、教育や研修を実施などにより、相談に対しその内容や状況に応じ適切に対応できるようにする。

3 職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応

(1)事実関係の確認(パワハラ指針4(3)イ)

相談の申出後において、相談者の受け止めなどの認識に配慮した上で、相談者及び行為者の双方から、事実関係を迅速かつ正確に確認する。

(2)被害者に対する配慮の措置(パワハラ指針4(3)ロ)

事案の内容や状況に応じ、行為者から被害者への謝罪、行為者に対する注意・指導、被害者と行為者を引き離すための配置転換など

(3)行為者に対する適正な措置(パワハラ指針4(3)ハ)

人事労務部署とパワハラ発生部署とで連携し、就業規則の内容や裁判例等の要素を踏まえた対応

(4)再発防止に向けた措置(パワハラ指針4(3)二)

パワハラが再発することがないよう、行為者のみならず職場全体に改めてパワハラ禁止等を周知・啓発する。

 

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